特等席で

南山大学スコラ・カントールム 2013年度定期演奏会パンフレットより

ともに駆け抜けた10年―。
「なんすこ」との日々を振り返って思う,私の率直な感想です。

「なんすこ」の創団は,2002年の秋学期に,キリスト教学科の井上淳先生と当時総合政策学科の教員だった私が一緒に,クリスマス・キャロルの合唱を通してキリスト教文化を学ぶ科目「キリスト教芸術2(典礼音楽)」を開講したことに遡ります。

かつて私がまだ神学科の学生だった頃,「典礼の音声学的基礎論」という司祭養成課程のための通年科目があり,声楽家の先生から,発声法や朗読法,聖歌の合唱などを教えていただいていました。なかなか人気の授業で,いつのまにか他学科生も集まるようになっていました。合唱練習の成果は神言神学院のクリスマス・ミサで披露され,一般の学生が聖夜の典礼に触れるまたとない良い機会ともなっていました。私はこの授業がすっかり気に入り,単位取得後もずっとモグリでこのクラスに参加させていただいたのでした。

留学から戻って南山に就職したばかりの頃,この授業をご担当くださった先生がお辞めになって6年も不開講が続いていることを知り,井上先生と,いつか復活させたいねと懐かしがっていました。そんな立ち話のようなところから始まったアイデアでしたが,丁度検討中だった学科のカリキュラム改正の波にも乗り,あっという間に実現に向けて動き始め,では早速次年度からクリスマス・キャロルを勉強する秋学期科目「キリスト教芸術2(典礼音楽)」として再出発させましょうということになったのです。こうして聖歌を学ぶ授業が2002年に再開されました。

ちょうどその年の12月8日,ドイツと名古屋を拠点に活動しておられる教会音楽家,吉田文先生の「アドヴェント・オルガン・コンサート」が開かれ,私たちのクラスが賛助出演させていただくことになりました。南山教会に600余名を集めた演奏会は大成功のうちに終わり,合唱もよく頑張ったとお褒めの言葉をいただきました。しかしそれ以上に,クラスの出演者たち自身が大いに感動し,盛り上がってしまったのです。

その高揚感のなかから,典礼音楽をメインレパートリーとする混声合唱団をぜひつくろうという声があがり,翌2003年1月27日、早速有志団体としての活動申請書が学生課に提出されました。こうして「南山大学スコラ・カントールム」は創団されました。

その後少しづつ経験を重ね,2005年には南山大学の課外活動の準公認団体に,2011年には公認団体に昇格,歴代団員の努力のおかげで,今では毎年30名を越える団員を数えるまでになっています。音楽面では,当初から西田尚美先生にオルガン伴奏をお願いしているほか,2007年からは,聖グレゴリオ宗教音楽研究所(東京・東久留米市)講師で,宗教音楽に造詣の深い声楽家の望月裕央先生をボイストレーナーとしてお迎えし,聖歌隊にふさわしい声づくりを教えていただいています。

私は聖歌指導のお役目をお引き受けしているのですが,創団当初は団員も10名足らずでしたから,もちろん私は学生と一緒に歌う気満々でした。ところが歌がよほど下手だったのか,いつのまにか「先生は前に立って私たちの歌を聴いていてくださいね」ということになってしまいました。

こうしてやんわりと追い立てられて指揮台の前に立つことになったのですが,実はそこは「特等席」でした。というのも,こんなに間近で「アンサンブル」を味わうことのできる席は他にないからです。もちろんハーモニーがぴったり揃って美しいときもあればそうでないときもありました。しかし美しかろうとなかろうと,それは「アンサンブル」以外の何ものでもない,ということに,団員と顔を見合わせ間近に向かい合ううちに少しずつ気づかされるようになったのです。

「アンサンブル」はラテン語の「insimul いっしょに」に由来する言葉ですが,和音やリズム,気持ちさえバラバラだったりするのは,「ともにある」がゆえの現象であることに思い至るようになったのです。

アンサンブルの基本は「ともにある」ことです。あえて言うなら「互いに他者のための存在であろうとする在り方」でしょうか。アンサンブルの価値をここに置くならば,「ともにある」ひとときがいかに稀有で貴重で尊いものかがわかります。ときに重苦しい空気に包まれたり,分解しそうな軽さに悩もうとも,それもまた「ともにある」在り方のひとつの大切な味わいだと了解されてくるのです。そんなことをこの「特等席」で感じながら団員とともに駆け抜けた10年でした。今日もまたこの席でなんすこの「アンサンブル」を聴かせていただける!ここに私の無上の喜びがあります。