南山大学スコラ・カントールム 2008年度定期演奏会パンフレットより
クリスマス・シーズンに歌われる音楽は大きく三つに分けられるといわれます。教会の礼拝のなかで歌われる「クリスマス賛美歌」,救い主の誕生の喜びを宗教的な歌詞にのせてうたう「クリスマス・キャロル」,そして,街なかに流れる「クリスマス・ソング」です。もちろん厳密な区別ではありませんが,この分け方にしたがって「クリスマス・キャロル」を「讃美歌」と「クリスマス・ソング」のちょうど中間に位置するものと考えることができると思います。キャロルは,歌詞こそ宗教的な内容ですが,それでいてとても親しみやすい音楽なのです。
英語の「キャロル carol」は,もともとヨーロッパ中世の宮廷社会の踊り,フランス語の「カロル carole」に由来するといわれています。語源をさらに遡れば,ギリシア語の「コレイア choreia」に辿りつきます。「コレイア」は「合唱舞踏」ほどの意味で,わたしたちがふだん合唱を指して使っている「コーラス chorus」とも関係のある言葉です。実際,中世に広まったキャロルは,踊りやすい3拍子系の民衆的な合唱曲が多かったようです。
「南すこ」は,創団当初から12月中旬を定期演奏会の開催時期とし,クリスマス・キャロルをメインにプログラムを組んできました。キャロルの語源は(踊りを伴う)合唱ということですから,これからも,キャロルを通して合唱音楽の素晴らしさを追求してゆきたいと思っています。1996年に亡くなった作曲家武満徹は,合唱について次のように書き遺しています。
「合唱(コーラス)の美しい響きをつくりだすには,他人(ひと)のうたを聴かなければならない。そして他人(ひと)はまた自分の声に耳を傾けているのだということを知らなければいけない。うまく歌うのもだいじだけれど,合唱(コーラス)でなによりだいじなのは,互いを信頼し,敬うことです。
(『武満徹全集2―器楽曲・合唱曲』,小学館,2003年,212頁より)
クリスマス・キャロルを歌うときにも,この言葉のように,他の人の声を自分のそれと同じように尊いものと全身で感じながら歌うことが大切だと思います。というのも,クリスマスは,御ひとり子をこの世に遣わされるほどに天の御父は人間をひとりひとり尊く思っていらっしゃる,そのことをお祝いする特別な日だからです。縁あって出会うことのできた「南すこ」の学生のみなさんと,このようなキャロルの輪(サークル)のなかにいられることを,わたしは感謝せずにはいられません。